「応急危険度判定」 と 「使用可能な被害レベル」 って?


被災建築物応急危険度判定

 応急危険度判定は、正式には被災建築物応急危険度判定。そのまんま、大規模災害時(に限らんけど)、「被災した建築物について応急的に危険度を外観目視なんかで判定する」ってことで、二次災害を防止するのが目的なんやね。目的がハッキリしとる。〔この辺のところは検索して頂ければ詳しく判るので省略〕 二次災害防止が目的なもんで、スタンスとしては 「危なそうなんで 立ち入らんといて!」という、近づかせない・使わせない方向での判断になるんやね。 自宅が危険判定されたら、指定避難所に避難する のが賢明というものやけど、ただ応急危険度判定は、法律ちゃうので強制も罰則もないのが本当のところやねん。

 建築士なんかが在住の各都道府県にボランティア登録してて、災害発生時に都道府県の要請で判定しに行くっていう仕組みなん。 各市町村長が被災状況を把握して、必要に応じて判定調査を知事に要請して、知事が判定士登録の建築士などに判定を要請する という流れになっとる。 なもんで災害発生から2~3日後に、現地入りして判定調査になるんは、しゃ~ないね。 基本被災した建築物は全て対象(とは言えタワーマンションなんかは対象外)になってて、社会的に重要度の高い建築物から順に判定する と講習会で聞いてるで。 社会的に重要度の高いっちゅ~のは、役所や警察署・消防署などのことで、被災後も業務を継続していかなあかんとこ のことのようやね。

 ただね、被災建築物応急危険度判定ってのは、かなり厳しい目の判定になってるやね、人命第一の二次災害防止が目的なもんで。 例えば鉄筋コンクリート造の場合、「外装材にひび割れ」と「ガラスにひび割れ」 この二点で危険判定になるんやんか。 大規模広域災害の場合、これぐらいは、たいていの庁舎建物やったら発生するもんやと思うんやけど…。危険判定されてしまうとやね、

  ◆ この建築物に立ち入ることは危険です

  ◆ 立ち入る場合は専門家に相談し、応急措置を行った後にして下さい

ということになってるで。 被災直後に専門家がすぐ来てくれて、即座に危険箇所を判定してくれて、応急措置をしてくれる業者がすぐ見つかって、すぐに対応してくれるんか~? どやろか?  この場合の専門家は、応急危険度判定しにきた建築士ちゃうから。 ふつうの建築士は、こういうことの専門家ちゃうョ。 ガラスのひび割れぐらいやったら、ガムテープ貼り付けといたらええようなもんやけど、専門家に相談せずに勝手にやると、あかんねんやろな~。 もちろん適当な判断で見えてるとこだけの応急措置なんかやってると、思わぬ二次災害につながるかもしれんしナ~。

 

 被災後も役所や警察署・消防署などが業務を継続してる中、被災2~3日後に、判定士がやってきて「この建物は危険やで~」となってしまうと困るんちゃうかな~って思うんで、実際のところどうなんか気になって、いろいろ訊いてみたんやけど…。 すると、こちらの訊ね方がマズいのか、どこに訊いても異口同音・自信満々に「大丈夫です。ご心配には及びません。ちゃんと対応できるようになってますから…」って答えてくれるねん。 「危険判定されても大丈夫」って、ど~ゆ~ことやろか? 何で自信満々なん?

 ほんでね、さらに気になったんが、役所や警察署・消防署などの被災後も業務を継続していかなあかんとこが、どうやって被災後の庁舎の安全確認をしようとしてるかっちゅうこと。 被災後2~3日は、判定調査に来えへんので、独自に判断するしかないワケやんか。 被災直後の建築物の判定は、いろいろ調べたけど、やっぱり被災建築物応急危険度判定しかないようなんで(実はあった、後述)、他の方法では判断・判定のしようがないハズなんよネ。 自治体には何か判定基準でもあるんかな~? もしあるんやったら、自治体の施設だけやなくて、指定避難所になってる近所の小中学校の体育館なんかも、避難所開設前の安全確認の参考になるやんか、でしょ!  たとえ指定避難所になってても無条件に安全というワケにはいかんし、危険判定になる可能性もあるやんか。 以前役所に訊ねたら、「危険判定された施設を、避難所として使用するのは望ましくないでしょうネ」って言うとったしナ~。 2回ばかし自治会長やっとったんで、避難所開設時の判断はメッチャ気になるんやんか。

 

使用可能な被害レベル って なんや?

 探しました。あった、あった、ありました~っ。見つけました。 内閣府(防災担当)が、手引きを出してるんやね。ちょっとタイトルが長いんやけど『大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き』 っちゅうのが、平成28年(2016年)2月に出てたんやネ~。 A-4で 約80枚もあるけど。 これか~、これに則って対応してるから自信満々やってんナ。 で、内容はというと「業務継続の基本方針や被害想定・体制の確立など」が手引きとなっとる。 あれ?肝心の被災直後の庁舎自体の安全確認の方法が見当たらへんで。 庁舎が被災し使用できない場合は、別に代替施設を選定して業務継続するっちゅうことになってるけど…。 そういえば、「本庁舎が被災したという他府県の実例もありますが、それも踏まえてちゃんと対応できるようになってますから…」って言ってたよナ~、この『手引き』が根拠か~。 じゃあ、別に選定した代替施設の安全確認はどうするんやろ? 結局一周回って疑問に追いついた感じ! それか周回遅れで疑問に追い越された感じかな?

 大規模広域災害の場合、近場の施設も同程度被災してる可能性があるんで、別の施設やから言うても業務継続がでけへん可能性は高いで。 現実問題、同一市内や同一府県内で、代替施設見つけるのは容易ではないかも。 かなりの遠距離やったら見つかっても、そこへ行くアクセスが困難やったら、代替施設にはならへんやんか。

 この『手引き』の中に、気になる文言があるんやけどね、庁舎の「使用可能な被害レベル」っちゅうフレーズがでてくる。 ただどういう状態がそうなのか、どう判定したらええのかは記載されてへん。 本当に「使用可能な被害レベル」の判定基準があるんやったら、指定避難所の避難所開設前の安全確認に使えるやんか。 そもそも、これを探しとったワケやから。 内閣府(防災担当)が出してる『手引き』にあるんやから、どっかにあるやろうと思って、またもや探しました。 こんどは出てけ~へん。 しゃ~ないんで、2017年の9月やったかな、直接、内閣府(防災担当)に訊きましてん。 この『手引き』の策定段階で参考にした資料があるハズやろから、それを教えてもらおと思って訊ねましてん。 そしたら何と、何と、何と、「使用可能な被害レベルに、判定基準はありません」、と即答。 そして何と、何と、「そこにいる人が使えると思ったら、使用可能です」と答えてくれましてん。「エッ!エ~ッ!何やて、ウソやろ~」、と言葉にはせえへんかったけど、「それは、アカンやろ!」。 そんなんで良かったら、危険度判定なんかも いらんやんか。 「そこにいる人が危険やと思ったら危険、安全やと思ったら安全」でええやんか。 ちゃうの? それともう一個ツッコミ入れとかんと、「使用可能な被害レベル に、判定基準ないんか~いッ」。 今現在、判定基準や判定方法ないもんを、なんで『手引き』に軽々しく・安易に・不用意に記載してしまうんやろ。  何の根拠があって根拠のないフレーズを記載するんやろか? こういうことは全国の自治体の防災担当者は知ってるんやろか? ぜんぜん知らんし疑問に思わなそうやから、自信満々に大丈夫です って言い切れるんやろ。  さすがに疑うのが仕事の警察でも、内閣府(防災担当)から出てくる『手引き』の内容までは、裏どりせ~へんねやろナ~。

 

「使用不可な建物」 じゃなければ、「使用可能な建物」 か?

 あまりにエエ加減な気がするんで、もう少し内閣府(防災担当)あたりを調べてみると、『大規模地震発生直後における施設管理者等による建物の緊急点検に係る指針』ちゅうのが、同じく内閣府(防災担当)から平成27年(2015年)2月に出てるやんか。 電話で問い合わせた時に、こんなんあるでって教えてくれたらエエのに、訊かれた事だけ答えんねんな。 この『指針』は、施設管理者向けっちゅうのが大事やね。 つまり建築については素人が緊急に点検するっちゅうこと。 人の受け入れの判断の参考にするようにって書いた~る。 こんなかに被災直後に行う「第1次チェック・一見して危険かの判定」っちゅうのがある。 もちろん一見して危険やったら、建物全体が使用不可になると書いた~る。 一見して判るぐらい壊れてたら使えるワケないやんか。 当たり前の話やろ。 この「一見して危険かの判定」の延長線上に、「そこにいる人が使えると思ったら、使用可能です」の言葉があったんかもしれんね。 

 で、この『指針』の別添にある「第1次チェックリスト」・「第2次チェックリスト」って、メッチャゆるない? 緊急やし参考やから、しゃ~ないか。 二次災害防止が目的の被災建築物応急危険度判定やったら「危険判定」なるところでも、この「チェックリスト」やったら、使用可能になってまうで。 二次災害の可能性残るで。 指定避難所や……等のための緊急点検に活用することが見込まれるって書いた~るけど、指定避難所に適応したらアカンでしょ? 避難所こそ二次災害を最大限に気に掛けとかんと…。

 この『指針』のチェックは、「使用不可な建物」じゃなければ、「使用可能な建物」とするような判断してるけど、違うんちゃう? アカンのとちゃう? 交通事故直後の自動車を見て、走行不可の判断はできても、外見上たいした損傷ない言うても走行可能の判断なんかでけへんやろ。 建物も、「使用不可」の判断はできても、そやから言うて「使用可能」の判断なんかでけへんで。

 ここまで判ってくると、最初の疑問は解決せ~へんね。 被災直後に施設管理者が『指針』のチェックするやん。 ゆるいチェックやから「建物ん使用可能」って判断するやん。 他の方法のチェックないから、この判断で業務継続するやん。 被災2~3日後に、判定士がやってきて「この建物は危険やで~」って言うやん。 困るやん。 ど~すんの? 判定基準を一本化してへんからちゃう。 何で複数の判定基準作るかな~? 混乱するやん? 被災建築物応急危険度判定よりも後で『指針』作ったんやったら、ちゃんと考慮しとかんと……。 被災直後に施設管理者がチェックするんは、エエとして、被災2~3日後に、判定士がこの2~3日間の状況に変化ないかチェックするんやったらエエんちゃう。 同じ判定基準使わんと意味ないやろ~に。 後の判定基準の方が厳しかったら「建物ん使用不可」ってなる可能性高いやん。 被災現場で混乱するで。

 結局、この「チェックリスト」でも基本的には、建物の使用不可が判明するんであって、「使用可能な……」が判るんちゃうで。 被災建築物応急危険度判定と、この『指針』の「チェックリスト」から、「事実上被災してへん建物は使用できる」という驚くべき単純な結論が出てくるだけやんか。 そんなんやなくて、これは本間に使えるんかな~っていうギリギリのところが、知りたいんちゃう…。 一見してアカンのやったら、アキラメつくやんか。 基本 建物を使いたいんやんか。 アカン話はいらんねん。

 

被災直後建築物の使用可能性判定マニュアル って いるんちゃう?

 それに、なにげに「使用可能な被害レベル」って日本語の表現で、特に違和感はないんで、普通に聞き流して(さも国民的合意でもあるかのように)、理解したようになってるけど、これって日常的に建築物の破壊メカニズムや損傷と建築物の強度の相関性なんかを研究してる研究者でも、目視だけでは判断でけへんのとちゃうか~(自分のようなふつうのただの建築士ではでけへん)。 ましてや自治体の防災担当者や施設管理者(言葉わるいけど、素人)が目視なんかでは判断でけへんやろ~。 ちゃうか~。

 理屈上では「使用可能な被害レベル」の建築物は、あるんやとは思うけど…。 それは被害状況の詳細調査と、その調査結果に基づいた応答解析なんかで、構造一級建築士が「使用可能」と判断できる建築物のことやろ! メッチャ時間かかるで。 『手引き』の主旨は、そんなんとちゃうんちゃう。 被災直後に、その場の空気感(?)で「使用可能か否か」を決断せえへんとアカンねやろ。 誰が決断するんかも、よう判らんけど。

 「使用可能な…」っちゅうことは、安全性を含めて判定しようとしてるんやと思うけど、危険性を判定するのと、安全性を判定するんではワケがちゃうやん。 安全性の確認は、ハードルが高い上に調べなあかんことメッチャ多いんちゃう その場で目視でっちゅうワケにはいかんやろ。 そやから 「被災建築物応急危険度判定」 であって 「被災建築物応急安全度判定」 には なってないやんか。

   危険ではない建築物を、危険と判定するのは、正しくはないけど、許される(許してもらえる)間違いとちゃうんかな。 その反面

   危険な建築物を、危険ではない(安全や)と判定するのは、正しくない上に、許されへん 絶対やったらアカン間違いやろ。

 代替施設にしても、十分な安全確認をせずに(危険かもしれへん状態で)安易に業務を継続してて、もし甚大な二次災害でも発生したら、自然災害やったハズが、「人災」になってしまうで。 『指針』の「チェックリスト」でOKでも、二次災害の可能性あるんやで、大丈夫なん。 たとえ良かれと思って一時的にでも、被災者や要救助者を(危険かもしれん庁舎に)収容してる時に、二次災害が発生して最悪の結果にでもなったら、間違いなく「人災」って言われるで。 「誰が施設を選定したのか?誰が施設の安全確認をしたのか?」 施設管理者か? 市長か? 知事か? いったい誰やねん?って、日本では通常、悪者さがし・犯人さがしするで。 大丈夫なん? 悪者の候補には、この『手引き』や『指針』を策定した内閣府(防災担当)は、リストアップされへんねやろうけど

 国としては、学識経験者による有識者会議っちゅうのを立ち上げて、庁舎の「使用可能な被害レベル」の判定をマニュアル化してもうて、総理大臣か国土交通大臣に答申してもらって、国として一本化した「被災直後建築物の使用可能性判定マニュアル」を、『手引き』に添付して全国の自治体に配布せえへんと、アカンのとちゃう《各自治体が各々勝手に「判定マニュアル」なんか作成しても、「国としては承知しておりません」とか必ず言うやんか》 こういうのが広く浸透すれば、指定避難所(近所の小中学校の体育館など)の避難所開設前の安全確認・使用可否に、使えるっちゅうもんやんか! こういう事をしてくれるんが、「ちゃんとした」対応って言うんちゃうん。

 

「デマの流布」 には なれへんか?

 やっぱし気になんのが、このての『手引き』に、判定のしようもあれへんのに 「使用可能な被害レベル」っちゅうフレーズを記載してしもてるのは、どうなん? 問題ないのん? 国が出してる『手引き』に、「使用可能な被害レベル」っちゅうフレーズがあれば、ふつう何か根拠あると思うやんか。 よう判らんけど何しか判定(判定の有無は問題ちゃうで…ふつう あると思うで)したら、ある状態の建築物(どんな状態かは問題ちゃうで…ふつう 何かの状態があると思うで)は、よう判らんけど「使用可能」なんやという印象を、多くの人々に与えはしませんか(ふつう そういう印象持つと思うで) っちゅう話やねん。 そやから、内閣府(防災担当)から出てる『手引き』を、裏どりしてへんやろうし、かつ盲信もしてる自治体に訊ねても、自信満々に「大丈夫です。 ご心配には及びません。」って、答えてくれるんやんか~。 業務継続の大前提になってる 庁舎の「使用可能な被害レベル」には、何となく根拠があって、自分らでも何となく判断できると思い込んでるんかして、自信満々に答えてくれるんとちゃうん。 国が出してる『手引き』やから っちゅう理由だけで、あまりにも信用し過ぎなんちゃう。 2017年現在、「使用可能な被害レベル」に、判定する根拠なんか ないねんで~。

 こんなふうに『手引き』のかたちで、根拠のない話が広く出回るっちゅうのは、ある意味「デマの流布」には なれへんのかって思うんやけど、ど~なん。